須藤 靖『不自然な宇宙 -宇宙はひとつだけなのか?』(BLUE BACKS、2019年1月)


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私の所属する福井山岳会は月一度の例会があり、前1ヶ月の山行報告を聞き、そのあと勉強会がある。勉強会のテーマは、たいていは、山に関すること、たとえば、新しい山の道具とか遭難のこととかいろいろ、が多いが、会員各位はそれぞれ山以外の得意の分野があり、土地買収のこととか山はどうしてできたのだとか、それはバラエティーに富んでいる。

2020年8月の勉強会の担当になり、何を話そうかを迷ったが、昔学生の頃地球科学の端くれのようなことことをしていたので、大風呂敷を広げて「宇宙、地球、生命の誕生」のタイトルを掲げた。

会宛てにメールで知らせたら、「なんと壮大なテーマですね。2時間でも終わらないのでは? 皆様、どんどん質問して早川さんを悩ませましょう。」と反応があり、これはいい加減なことはできないと、少し緊張した。

「宇宙、地球、生命の誕生」の最先端を正しく語るには、相対論や素粒子物理や宇宙論や、それこそ膨大な知識が必要だが、それはとても無理。さしあたって、「宇宙創世」や「地球 生命 誕生」等の検索で引っかかる新書版程度の一般的な読み物を選び、それにウイキペディの解説なども参考にして、なんとか1時間ほどなら話せそうな資料ができあがった。

そんないきさつを大学院の頃の友人にメールで知らせると、~実はこの頃、もう50年近く前に勉学をともにした学友・親友とメールのやりとりがあり、近況などを知らせあっている~、「マルチバース」というのがあるがと教えられ、そこで探したのが表題の本であった。

面白かった。実に巧妙というか、納得せざるをえないというか、巧みな本であった。

帯には「この宇宙は不自然なほどよくできている!その謎を解く鍵は「マルチバース」だった」とある。

最初、「不自然な」の意味が分からなかったが読み進めるうちに、「不自然な」がこの著者の言いたいことを端的に表しているキータームであることを知る。「不自然な」でくくって論じられて事柄を「不自然な」と感じるのが物理学者なのだということも分かってきた。

その例として、本文中の図から引用;

マルチバース001

 

自然界の四つの力、つまり、重力、弱い力、電磁気力、強い力でこの世界はうまく成り立っているが、著者はこの四つの力のそれぞれの大きさが「不自然な」、だという。

以下にその大きさを引用;

マルチバース002

(四つとも無次元なので、直接比較できる。)

確かに,四つの力の大きさは極端に違っている。著者にとってこれら四つの力の大きさが同じ程度であることが物理的に「自然な」ということで、上記の様な差があるのが「不自然な」ということらしい。

もしも重力が1程度だったらどうなるか。
極端な場合、原子が10個ほど集まっただけで、互いの重力により核融合まで起こり、とても安定的な世界は作り得ないことになる(p167)。

その他、「不自然な」例として、水の凝固点温度がゼロ℃であり、かつ最大密度を示す温度が4℃であることを挙げている。温度が下がるに従って密度は大きくなるのに,そのピークが4℃にあるのは「不自然」だが、そうなっていることで、海は底から徐々に凍るようなことが起こらず、それだからこそ「原始的生命を誕生させ全球に循環させるという水の重要な役割も」あり得たのだ、と(p188)。

その他、「不自然」だが、それがいかにに生命や人類にとって有利なことになっているか,多くの例が挙げられている。

この地球で生命があるのは、物理的にはとても「不自然」なことなので、そんなことがどうして起こっているのか、その理由を求める。

そこに登場するのがマルチバース。Universe に対してMultiverse。

シュレディンガーの猫の例を巨視的世界に拡張すると以下のようなことになる。
│世界〉=a│世界1〉+ b│世界2〉+ c│世界3〉+ d│世界4〉・・・・

これは多世界解釈的マルチバースを表す式。

このうち、どれか│世界i〉が実際の我々の世界で、これはとても確率が低い。しかも、そこでは物理定数が「不自然」に見えて、しかし、それ故、堅い確固として世界ができている。

その他は「自然な」物理的世界で、そこはわれわれの世界のように堅固ではない。そのような世界の方が確率的に大きく、全体的に「自然な」世界を形成している。

しかし、これら、我々の世界以外の世界は観測にかからない。観測にかかれば、それは我々の宇宙だから。因果関係が無いことが多世界解釈的マルチバースだから。

これが単なるお題目なら一種の宗教的表明になるが、シュレディンガー方程式から出てくるところが味噌。観測にかからないが数学的には矛盾は無く、「納得しなければならない」様になっている。

「選択効果」と「人間原理」の二つのことを学んだので、それについて以下に引用します。(p194~p195) マルチバースと、「選択効果」と「人間原理」の論理的な関係が、ここまでの説明では不明瞭かも知れませんが、どうか、本書に戻って確かめてください。

<以下引用>
これらの例を学んだ後ならば、「知的生命が存在している惑星は、数多くの偶然を経験している」という事実は、さほど不思議ではなくなります。「知的生命が存在する」という事象と、「その惑星が数多くの偶然を経験している」という事象は独立とは言えないからです。別の言い方をすれば、「知的生命が存在する」という条件を課すことで強い選択効果が導かれているというわけです。

とすれば、さらに、「知的生命が存在している宇宙では、物理定数は不自然な値の組み合わせをとっている」という結論も、不自然ではないのかもしれません。前車で述べたように、自然な値の組み合わせをとる宇宙では知的生命が誕生しないとすれば、「知的生命が存在する」という条件を満たす宇宙は選択効果のために、不自然なものしか選ばれないためです。

このように、人間の存在と宇宙の性質の問に成り立つ相関を選択効果で解釈しようとする考え方は「人間原理」と呼ばれています。その名前の妥当性や、果たしてそれが何をどこまで説明できるのかは別として、根底となる選択効果の存在そのものは認めるべきです。
<引用終わり>  

最後に著者の基本的な信念を引用します。(p213)

・この世界に存在する森羅万象、さらには宇宙・世界そのものまでもが、例外なく物理法則にしたがっでいる。

・物理法則に矛盾しない限り、いくら可能性が低いと思われる現象であろうと、この広い宇宙のどこかで必ず実現している。

(完)



Author

早川 博信

早川 博信

 

一念発起のホームページ開設です。なぜか、プロフィールにその詳細があります。カテゴリは様々ですが、楽しんでもらえればハッピーです。


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