トマス・ピアース著、真田由美子訳『小型哺乳類館』(早川書房、2017年12月)


本を買って読むことがほとんどなくなった。買わずに図書館に行く。本が残るのが嫌なのと(残った本はどうなるのか、始末に困ると思う)、なるべく切り詰めた生活をと心がけているので、買うことがない。かつて本屋で帯と後書きで「あたり」をつけて買ったように、図書館の新館コーナで同じようなことをして、新しい本を見つけている。これもそのうちの一つである。

(1)出版社の説明から引用すると;
「息子が連れて帰ったクローン再生マンモスを裏庭で世話することになった母親(「シャーリー・テンプル三号」)、夢の中にだけ存在する夫への愛を語る女性と、夢の夫を探そうとする現実の彼氏(「実在のアラン・ガス」)、正体不明の感染症で亡くなった弟の遺体返還を断られつづける兄(「追ってご連絡差し上げます」)……奇妙な出来事に直面して揺らぐ人々の日常を描く、笑えて泣ける12の物語。」

(2)著者についてはカバー裏に;
トマス・ピアース
「1982年、サウスカロライナ州生まれ。バージニア大学創作科卒。「実在のアラン・ガス」は高校生による年間傑作選『ベスト・アメリカン・ノン‐リクワイアド・リーディング2014』に収められ、「バーバブーン」は2015年の『オー・ヘンリー賞受賞作品集』に選ばれた。2016年、本書により全米図書協会の新人賞「35歳未満の注目作家」を受賞する。

(1)、(2)は引用である。これから感想。
12の短編はいずれもどこかこの世からずれた世界あるいは人々が物語を引っ張っていく。出版社の説明にある三つ(「シャーリー・テンプル三号」、「実在のアラン・ガス」、「追ってご連絡差し上げます」)がHの最もおもしろかった三つと一致していて、これが感想でも書いて残しておこうという気にさせた。

・「実在のアラン・ガス」
一緒になって1年ほど経ったある日、主人公のウォーカは妻のクレアから「あなたに言っておきたいことがあるの、ある人のことで」と打ち明けられる。「わたし結婚しているみたい」「みたいって?」

夢の中に夫がいるという。高校のときからの知り合いで大学生のときはフットボール選手だったこと、今はその当時より体重が少し増えた。眼科医で上背があり明るい青い目をしている。「スーパーリアルな夢なの」。毎晩夢の中でその夫と時間をともにしているらしい。

夫たるウォーカは「アラン・ガス」が気になって仕方ない。電話帳で調べると「アラン・ガス」が二人いた。ウォーカはそのうちのひとりに会いに行く。なぜ来たのかと問われ、夢の中の「夫」のことを話す。「それはおれでないよ」。実在のアラン・ガスはもう一人のアラン・ガスを見つけてきて、そいつを紹介するから、もう一度来い、と言う。実在のアラン・ガスはどんどん増えていくが、それに比例するかのようにウォーカの心配事はどんどん遠くに追いやられていく。

妻のクレアはデイジー仮説と呼ばれる「存在と非存在が両立する状態が可能な素粒子」研究グループの一員である。その仮説はある実験で覆りそうになり研究グループは大いに混乱に陥るが、やがてその実験は誤りだったことが分かり、デイジー仮説は有効なまま残る。

「夢の中のアラン・ガスと実在するアラン・ガス」と「存在と非存在が両立する状態が可能な素粒子仮説」。エンドはパッピーだった。よかった。

・「追ってご連絡差し上げます」書き出し;
”飛行機は到着したが、弟は乗っていなかった”。
物語が始まった。ここで、このような書き出しで、「弟」がすでに死んだひとであるとは、多分、誰も想像が付かないだろう。

兄のバートは空港のカウンターの女性に言う。「この便に搭乗することになっていたんだ。あんた、人間の遺体を紛失したと言っているのかね?」待っていたのは棺桶に入った弟、ロブだったのだ。棺桶を待っていたとは! びっくりした。

国務省のミセス・オリバーがバートに説明する。「上層部の判断で弟さんはまだお渡しできる状況にありません。死因確認のために二度目の死体解剖をしなければならないようで」「動脈瘤ではなかったのか?」

資源開発に携わっていたロブは鉱山に出入りしていた。そこで未知のウイルスに感染して動脈瘤になったらしい。ロブは精密検査のために著名な研究所に運ばれるが、ロブに接触した人々が原因不明の死を遂げたことが分かり、ロブを完全隔離しすべての人と離しておくべきだと決定が下る。

ロブはこの地球上のあらゆる場所に移動させられていくが、いつも海上であったり空中であったりする。国務省のミセス・オリバーは逐一そのことをバートに連絡してくるが、最後に「追ってご連絡差し上げます」で電話を切る。

ついに、ロブは「生物兵器」である、とミセス・オリバーが伝えてくる。

ロブに会えると連絡が入る。それは船の中にとどめ置かれているロブをヘリに乗って上から眺めるだけだけれどと。その船に降り立つのは危険で許されることではい。バートは妻と一緒にヘリに乗って上から船を眺めるだけだった。 

ロブはゼラチン状液体に浸して、凍結され、1ミリの厚さにスライスされて、すべてスキャンしてデジタルデータとして残される。それらのデータはバートのところに送られてくるが体の一部がない。肩や口や腕など。ミセス・オリバーは、「それらにアクセスする権利をまだ確保していたいのでそうなったが、鋭意努力している」これからも彼のために上層部に働きかける。喜んで彼のためになる。「詳しいことは追ってご連絡差し上げます」



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早川 博信

早川 博信

 

一念発起のホームページ開設です。なぜか、プロフィールにその詳細があります。カテゴリは様々ですが、楽しんでもらえればハッピーです。


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