畑のすぐ下を流れる南川の堤防の法面の上部から立ち上がる形で、堤防に踏ん張るようにして大きなケヤキが立っている。
この大きな木が作る蔭、左右に長く伸びた枝の濃い緑、枝を揺らす風の音、どれも畑で働くものを安心させてくれる。ほっとして木を見上げる。
木を残すのには苦労があったのである。
かつては我が家の土地だったところが川幅を広げる河川改修工事で堤防の一部になることが明らかになったとき、そこにあった3本のケヤキをすべて切るようにと言われた。三本のうち二本は広がる川の中に位置するところにあったので切ることを承諾した。残りの一本は新しくできる堤防の法面の位置にあった。工事関係の役所から、堤防に木が立っているのは防災面からいっていいことではない、堤防が弱体化する、これも切ることに同意して欲しいと。
堤防に木があることは根が張ってかえって堤防を強くすることにならないか、法面に立っていることがそれほど悪いことなのか。県の土木事務所に、絶対に切る気はないと言いに行った。何度も押し問答が続いた。村の役場にも嘆願に行った。お願いが抵抗に変わって木は残った。大げさな言い方だが、最初で最後の公的権力への抵抗であった。
木を見上げるたびに、安易に承諾しなくて良かったとつくづく思う。