沢納めの姥ヶ岳・横越谷、2025年8月4日(月)晴れ


山頂を極める方法にはいくつかあり、沢を詰めるのもそのうちの一つである。上るにつれて水が少なくなり最後はその沢の源まで行く。そこから藪を漕いで山頂に至る。沢靴といって靴の裏に数cmのフェルトが張ってあり濡れた岩の上でも滑らないようになっている。加えて、基本的な岩登りの技術も必要である。

初めて沢に入ったのは、福井山岳会に入会して数年後の昭和四十年代の後半だったように思う。当時は沢靴などなく、わらで編んだ草履を登山靴の下に取り付けて滑り止めにしていた。途中ボロボロになるので代わりを持って行った。藁で編んだ荒縄も持って行った。安全ベルトであるハーネスもなかった。-当時はハーネスとでなくドイツ語のゼルブストだったけれどー。なかったので、ザイル(いまはロープと言う)で「何とか結び」で安全ベルト状のものを作って身体に巻き付けていたが、その結び方もすっかり忘れてしまった。

荒島谷に入ったのはこのような時代であった。道具や装備や技術は今と比べて貧弱そのものだったが、沢を楽しむことにかけては時代は関係ない。当時の写真を見ると一緒に行った前原さんなどは淵に腰まで浸かって破顔の笑み100%である。そのとき、肝心の、沢をどこまで詰めたのかは覚えていない。

あれから60年、80の声を聞いて急に体力と気力の衰えを感じるようになった。これは、歳そのものと数年前の大病との両方から来ることなのだろう。70代とは違うのを痛感している。

これまで死ぬかも知れない状況に陥ったことが数回あった。思い出しても恐ろしい。山で死なないうちに「納め」の儀式をしようと思った。納めの順は「沢」が最初だ。安全なところで精一杯楽しんでそれで最後とする。「沢納め」として姥ヶ岳の横越谷を選んだ。2021年に行っているので良く覚えていることも選択の理由のひとつだった。

当日までにひとつだけバタバタしたことがあった。行くと決まって準備を始めたら沢靴がどうしても見つからない。そうとうぼろぼろだったが使用可能だった、これがなければ行けない。山岳会の仲間にお願いして沢靴を借りることにしたが、借りてきて履いてみると微妙に小さい。これでは不安なので、急遽新しいのを買うことにした。「最初にして最後の靴」というのもかっこいいではないか。ネットで探して北海道の「秀岳荘オリジナル、沢足袋」というのを見つけて注文した。8月4日の2日前に届いた。足にぴったり、心配していたことが消えた。

姥ヶ岳_沢(ルート図)

林道30分、沢の遡行4時間弱。全行程6時間であった。

沢足袋表
沢足袋裏

上下2枚の写真が沢足袋。文字通り「足袋」で、その底に数cmのフェルトがしっかり貼り付けてある。これで歩けば濡れた岩も滑ることはない。

姥ヶ岳の横越谷は大野市の奥に位置するので、福井での集合時間は6時だった。3時半にアラームを設定したが、3時に目が覚めて、超早い朝食を摂って、インスリンも4単位打って、名田庄の家を4時過ぎに出た。集合場所に着いたときにはほとんど人が来ていた。すぐに工藤さんが来て総勢8人になった。蒔田、神尾、竹内、工藤、笹木、小林、フッド、小生の8名である。小林さんとフッドさんは登山道から山頂往復のコースである。本日の沢はロープが不要なので、また「最後」と決めていたので、未練が残らないよう、ハーネスを同行の笹木さんにもらってもらった。笹木さんは本日が沢デビューである。これで今後は危ないところに行くことはなくなった。

2台の車で姥ヶ岳の駐車場へ向かう。

駐車場で出発のときから沢衣装―沢靴、ハーネル、ヘルメット、沢脚絆などーを着ける。私は、今日のために新しく買った沢足袋をみんなに披露する。ハーネスを付けていたのは神尾、竹内、工藤の3人だった。「沢に入るのだからハーネスでしょう」と神尾さんからは言われたけれど。7時半歩き始める。

倒木が何度となく道を塞ぐ林道を30分歩いて入渓、2021年に来ているので覚えがある。難しいところがないので選んだ「最後の沢登り」である。大きな岩がゴロゴロしている渓谷は水は少ない。ナメもあるし、水を浴びるところもあるし、それでいて難しくないのでなんとかみんなに付いて行けるが、ただ、バランスや柔軟性にはどうして欠けるので滑って転倒しないように注意して歩く。岩を支えにしたり、木の枝を掴んだりして。歩いているのに三点確保が必要なのだ。超暑い夏に、水の中に足をつけて、時々腰まで水に入り、これはなんとも気持ちが良い。

DSCN1380 DSCN1388

休憩の時に工藤さんが話しかけてくる。「名誉会長の増永さんから聞いたことだけれど、岩をポンポンと軽やかに飛べなくなったので、これはもう沢には来れないと思ったと」。このことは本当によく分かる。

神尾さんの後をつけていて気がついたのは、彼はこのような易しい沢でも、できるだけ難しいところを選んで遡行していることだった。本当にたいしたことは出来ないのに、それでも“より簡単でないところ”を選んで遡行している。やはりたいしたもので、山岳会魂ここにありであった。(ちょっとオーバーか)

幅10mほど、深さは1mちょっとの淵が出てきて、蒔田さんがまず入り、両手を合わせた仏様のポーズ、続いて竹内、神尾の両名。三人は横一列に並んでしゃがんで首まで水につかった。満面の笑みの三人を写真に収める。

DSCN1398

 

入渓して1時間半、標高1000mで15mの滝が出てくる。これも覚えていた。右岸の土壁を高巻きして通過した。先行の人が、こっちだ、ここはその枝を掴んで、そこは左だと、教えてくれるのでそれに従って登る。こんなところで落ちるわけにはいかないと、唯一緊張した箇所だった。滝の上部に出てそこから下りてみんなの後を追う。見上げると見事なブナ林である。

滝

登山道に出るまでの最後の詰めのルートがほとんど高さのない枯れかかった沢で、これが長く辛かった。11時50分,夏道に出る。濡れた沢足袋を脱いで担いできた軽登山靴に乾いた靴下、実に快適である!出発の時から山頂には行かないと言うことだったので平家平に向かって下りる。

DSCN1413

(そろそろ沢が尽きるという地点で集合写真)

 

登山道からの山頂往復だった小林さん、フッドさんの二名と平家平で合流出来た。少し遅い昼食を摂る。食べる前に血糖値を測ると、無制限に食べ放題だったので245だった。いつもの量のインスリンを打って昼飯の食パン+トマト+キャベツ+メヨネーズの、サンドイッチを食べる。

DSCN1415

12時50分、下山開始、朝の駐車所までひたすら下りる。ブナ林の下の道は直射日光が遮られてそう暑くもなく下りられた。13時35分、登山口に着いた。6時間の行動だった。無事沢を卒業でき、ちょっと感慨深かった。

 

DSCN1412

(これで本当に”沢よさらば!”となるのかな)



Author

早川 博信

早川 博信

 

一念発起のホームページ開設です。なぜか、プロフィールにその詳細があります。カテゴリは様々ですが、楽しんでもらえればハッピーです。


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